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< 新聞掲載のQ&A >

1.両脚とも大腿骨頭壊死に

(Q) 二児の母(43)です。二年前に右太ももの付け根が痛み、病院で「両脚とも特発性大腿骨無菌性壊死症」と診断されました。右脚は手術で人工骨頭を入れましたが、10~15年後に入れ替えねばならないそうです。もっと長くもつ人工骨はないでしょうか。今は痛みのない左脚も、痛みが出たら同じ手術をすると言われています。骨はいつも代謝しているそうですが、自然に治らないものでしょうか。また20年前はよくお酒を飲みましたが、それが原因でしょうか。

(A) 特発性大腿骨頭無菌性壊死症は、アルコールや特殊な薬(ステロイド)のほか、全く原因のない場合にも発症します。20年も前のお酒は原因として考えにくいといえます。右側に人工骨頭の手術を受けられていますが、現在では人工関節は必ずしも10年から15年で入れ替える必要はありません。しかし、いったん緩むと骨の破壊が大きくなり、再手術は難しくなります。肥満に気をつけ、無理をせず、遠くに出掛けるときはつえを使うことも大事です。骨は代謝していますが、壊死の範囲が大きいとなかなか自然修復は起こりません。
左側については、現在痛みがないことから、大腿骨頭に変形は生じていないものの、壊死の範囲が大きくて主治医が手術をためらっていると思われます。病院の範囲が体重のかかる部分のどのくらいを占めるかによって、将来の骨の崩れやすさが決まります。できることなら壊死の範囲が大きくても大腿骨頭を温存すべきでしょう。大腿骨頭回転骨切り術のほか、血管柄付き腸骨移動術という方法もあり、壊死の範囲が大きい場合には、その両方の手術を併用して良い結果を得ることもできます。専門医へご相談ください。

2.大腿骨骨折いつ完治

(Q) 45歳の主人のことです。昨年1撃ノ転んだはずみで右大腿骨頚部を骨折しました。闖p後は装具をつけてリハビリに通院していましたが、今年検査したところ、骨頭の色がまだ黒く、正常に戻っていないと言われました。完治までおおよそどれくらいかかるのか。また、骨頭がつぶれたら人工骨を入れなければならないそうですが、スポーツや日常生活での制約はあるのでしょうか。

(A) 大腿骨頚部骨折手術後の骨頭壊死の発症を予測することは大変難しいものです。闖pの2、3年後に骨頭の陥没変形が生じることもあり、一概にいつ完治するかは断定できません。最近はMRI検査によって初期の微細な変化を見られるようになりました。闖p後1年たって骨頭に黒色の画像が残っているとなると、骨頭壊死の可能性がありますが、その黒色変化のタイプによっても、また、部位によっても将来の骨頭の変化に差が出るといわれています。レントゲンハ真の所見と常に比較しながら詳細に検討していく必要があります。
もし壊死の範囲が小さければ人工骨頭にしなくても大腿骨頭回転骨切り術などで骨を温存することも可能だからです。人工骨頭手術後の機能も決して悪いものではありません。普通に痛みなく歩け、スポーツも水泳、自転車は問題ありません。ダンスや平たんなコースでのゴルフもよいでしょう。日常生活では洋式トイレやベッドの使用が大切です。 一般に若い年齢に行われる人工骨頭は、術後にゆるみを生じるほかに、長い間に関節を担う硬いプラスチックの磨耗が生じて骨を弱くする問題があり、基本的に激しいスポーツ活動は控えなくてはなりません。

3.人工骨入れたが異物感

(Q) 70歳の主婦です。20年ほど前に右股関節脱臼で人工骨を入れました。快調だったのですが、このごろは異物感と痛みがあるので診てもらうと「人工骨の緩みのため、入れ替えが必要」と言われました。これは難しい手術なのでしょうか。手術後は今までのように歩けるのでしょうか。教えてください。

(A) 人工股関節は、骨セメントという硬質のプラスチックで金属を固定する方法を使用してきたため、手術後10年以上たつと緩みが生じやすくなります。これを放置すると、骨セメントが砕けて小さな磨耗粉となり、生体の異物反応で人工関節の入っている骨(大腿骨や骨盤)が破壊されていきます。そうなると、外部からの小さな力や転倒などで骨折しやすくなり、再手術による骨の再建がさらに難しくなります。従って早い時期の再手術がよいでしょう。
人工股関節の再手術は非常に難しく、高度な手術技術が必要です。ほとんどが人工関節の専門医のもとで行われていますが、再度緩みが生じたり、感染、脱臼の発生率が高いのが現状です。もう一度骨セメントを用いて再手術する方法もありますが、骨セメントを使わずに骨と直接結合するセメントレス人工股関節を用いて再手術することをお勧めします。これは、今までの人工関節より少し長めで、広範囲にポーラスコーティングという表面加工がなされたものです。再び緩みを生じることなく、緩む以前と同じように歩くことができ、患者さんは高い満足度を得ています。専門医とよく相談し、十分納得した上で再手術を受けてください。

4.「骨切り術」の跡が痛む

(Q) 49歳の主婦です。約30年前に右股関節脱臼で「骨切り術」という手術を受けました。2,3年前から歩くのがスムーズにいかず痛みも出てきたので、市内の整形外科を何ヶ所か受診しました。どの病院でも「再手術は難しい」と言われ「あと、10年待つように」とも言われました。現在は市内の病院に半年に一度くらい通院しています。レントゲンをとった後、坐薬の痛み止めをもらい一時をしのいでいます。治すことはできないのですか。

(A) 30年前に行った「骨切り術」とは、脱臼により股関節で体重が支えられないために大腿骨の近位部をくの字に骨切りし、大腿骨近位部と骨盤とを向かい合わせて体重を支えようとする「大腿骨外反骨切り術」のことだと思います。この手術は、以前は学童期から20代の若い人に行われました。長期間、強い痛みを感じずに生活できますが、20年から30年経過すると徐々に股関節痛が増強して、歩行が困難になる場合があります。完全に疼痛を除去するための再手術は、人工股関節を入れる手術以外にはありません。
しかし以前の「骨切り術」によって大腿骨が変形しているため、人工関節を入れづらく、一般の人工股関節手術と違って手術は非常に難しいものです。いくつかの方法がありますが、以前の骨切りした部位を再度骨切りしてその変形を矯正し、同時に人工関節の固定に骨セメントを使用しないセメントレス人工股関節手術を行うことが最も良い治療法と思われます。この方法は一度で治療が終了し、再度骨切りした部分の骨の結合や治り具合も良好です。入院期間も比較的短く、疼痛も消失し、足の長さや歩き方もかなり改善されます。手術の必要性は、疼痛の程度や鎮痛剤の効果の有無により決定されるべきと思います。股関節外科の専門医に相談されることをお勧めします。

5.股関節の発育が悪い

(Q) 生後4ヶ月の娘の股関節のことです。乳幼児検診で、左脚つけ根の骨のカサの部分の発育が悪いと言われました。1ヶ月後に再検診しましたが、また1ヶ月後に検診に来るように言われました。将来、歩くのに影響が出るのではないかと心配しています。また、検診のたびに受けるエックス線撮影の体への影響はないでしょうか。

(A) 「脚のつけ根のカサの部分(臼蓋)の発育が悪い」ことを、医学的に股関節臼蓋形成不全症と言います。臼蓋とは、股関節の骨盤側にある大腿骨頭を覆う部分のことです。最近では、先天性股関節脱臼における完全脱臼の発生は少なくなりましたが、程度の軽い、この臼蓋形成不全症は、まだ珍しくありません。形成不全の程度が強い場合には、リーメンビューゲルという股関節のバンドを使用して治療します。程度の軽い場合は、普通のおむつを使用して、できるだけ赤ちゃんの自由な脚の動きを制限しないようにし、臼蓋形成不全が自然に良くなっていくのを待ちます。この良くなっていく過程をエックス線でチェックしていきます。最近は、赤ちゃんの歩き始めが早くなっていますが、あまり早い時期から立たせたり歩かせたりすると、股関節の臼蓋がきちんと成長しないことがあります。はいはいをたくさんさせて、体全体の筋肉を十分に発達させ、歩くための準備をしっかりすることが大切です。そうすれば将来歩行に影響が出ることはほとんどありません。赤ちゃんに対する、月に一度程度の股関節部のエックス線撮影では、下腹部に防御版を付けて撮影するので、人体への影響を心配する必要はありません。ただエックス線撮影を頻繁に受ける必要はありませんから、成長とともにエックス線撮影の間隔を延ばしてもらうと良いと思います。

6.治療した股関節が痛い

(Q) 33歳の女性です。股関節脱臼で生まれ、生後1年以内にギプスをつけて治しました。年とともに、歩くと左脚の股関節が痛み始めました。28歳からは、おしりのへこんだ部分がときどき電気が走ったように痛みます。昨年12月からは、左脚のすねにしびれを感じ始めました。運動をすると痛みは減りますが、脚のしびれは温めても変化がありません。股関節の痛みと脚のしびれは関係があるのでしょうか。痛みを和らげる方法はありますか。

(A) 乳児期にギプスをつけて股関節脱臼を治療すると、股関節の骨盤側にある骨の発達が不十分な「股関節臼蓋形成不全症」になることがあります。大人になって長距離の歩行や激しい運動をしたときに、股間部分にだるい痛みや刺すような痛みが見られます。しびれたような痛みが、股間から大腿部、ひざ辺りにまで出ることもあります。ただし股関節の影響で、すねにまでしびれが見られることはまれです。すねの知覚は座骨神経が支配しており、股関節とは別だからです。質問ではおしりの痛みもあるので「腰椎椎間板ヘルニア」などが原因の座骨神経痛の可能性もあります。股関節と腰の骨のどちらが原因で起こっている痛みかを、きちんと調べる必要があります。股関節臼蓋形成不全症の痛みを和らげるには、激しい運動や長時間の立ち仕事を避ける必要があります。水泳などの運動で股関節周囲の筋力を強化してください。座骨神経痛ではビタミンB12などの薬物療法などの理学療法が有効です。重症の股関節臼蓋形成不全症や腰椎椎間板ヘルニアでは手術が必要な場合もあります。整形外科を受診し、正しい診断のもとに治療を受けてください。

7.人工股関節、老後向きか

(Q) 48歳の娘は歩き始めた時に股関節脱臼でギプスをしてもらいました。その後は小学校時代結婚、育児まで無事で過ごしてきましたが、最近になり、痛みを訴え、歩行も不自由とのこと。どの病院でも人工の骨を使うように言われたそうです。しかし「耐用年数は10年で、今手術すると将来何度もすることになるので、70歳近くなってからにしたら」と言われたことのことです。老後より今のうちに治して快適な人生を、と思うのですが、ご見解を。

(A) 娘さんの場合は先天性股関節脱臼治療後の二次性変形性股関節症で、しかもその程度はどの病院でも人工関節を勧められていることから、かなり進行した状態にあると思われます。人工股関節の手術は一般に65歳以上が良いのですが、痛みが強く、歩行も大変な場合は、若くても人工股関節手術以外に解決法がないこともあります。若い人にこの手術を行う場合には耐用年数が問題になります。耐用年数に最も大きな影響を与えるのは、人工関節の「緩み」です。これは人工関節を固定するために使う骨セメントの強度が長期間のうちに低下し、骨との固着性が失われるために生じます。日本で人工関節が使われ始めた1970年代、耐用年数は約10年といわれていました。最近は骨セメントの質を高める工夫がなされ、手技的に正しい手術をすれば10年以上の長期にも十分耐え得ると考えられています。
私は、若い患者さんであれば、骨セメントを使わない人工股関節置換術をお勧めします。これは人工関節の表面が多孔性に処理され、人工関節と骨とを直接結合するもので、骨セメントの弊害を回避できます。また、人工関節術のほかにも、大腿骨骨切り術や筋解離術といった方法もあり、痛みの改善や関節症の進行の防止に効果を示すことがあります。股関節外科の専門医に相談すると良いと思います。

8.足の付け根に鋭い痛み・骨切りや人工関節で改善

-患者にはどんな痛みがあるのでしょうか
「早い人は若年期から足の付け根に痛みが出ます。当初は数ヶ月に一度ぐらいの頻度で、激しい運動などの後に痛みを感じる程度ですが、何年も放置して治療やケアをしないと、歩くたびに刺すような痛みが走るようになります。最後にはじっと寝ていても、ぶつかり合った骨の磨耗粉などが原因となる炎症が持続するようになります」

-骨切り手術とはどんなものですか
「主に症状の悪化を防ぐため、骨を切って自然な臼蓋の形に近づけるものです。骨盤と大腿骨骨頭の間の軟骨が不均等に体重がかかって一部がすり減り、骨が壊れていくのを防ぐために行います。骨盤を削って適切な臼蓋を作ったり、大腿骨を切って骨頭の傾きを替えて一点にかかる体重を分散させます」

-人工関節を入れる手術もあるそうですね
「激しい痛みが続いて足を引きずるような状態で、骨切り手術の効果が期待できない場合は、臼蓋部分と大腿骨骨頭を金属や高分子プラスチックなどでできた人工関節に切り替える手術を行います」

-症状を進行させないために注意すべきことはどんな点ですか
「体重を減らし、骨盤や大腿骨を包む筋力をきたえて骨にかかる圧力を下げることが大切です。股関節や腰、ひざ上あたりに痛みがある人は、つえを使うことも必要でしょう。痛みの原因が分からず、神経痛や椎間板ヘルニアなどと思い込んでいる人もいるはずです。整形外科医の診察を受けてほしいですね」

9.変形性膝関節症 減量や歩行制限が必要

変形性膝関節症は外傷、リウマチなどの炎症でも発症しますが、一般的に中高年での発症が多く、加齢にともなう原因のはっきりしない骨・関節の変性をいいます。最初は歩行を始めるときや立ち上がる際など、膝関節の動き始めに、主に膝の内側に疼痛が生じます。病状が進行すると歩行中や階段の登り降りでも痛み、関節がはれて熱く感じられます。さらに進行すると膝の曲げ伸ばしが制限され、膝関節の変形や大腿部の筋肉の萎縮を生じて安静時にも痛むようになります。患者さんの多くは肥満し、O脚になっています。膝の疼痛を感じたら体重減少に努力すべきです。歩きすぎや重い荷物を持って歩くことを控え、膝関節に負担をかけるような日常生活動作を制限しましょう。
正座は膝に過度のストレスをかけることになります。膝関節の病気には変形性膝関節症」のほかに痛風、慢性関節リウマチ、細菌性関節炎や滑膜炎、特発性骨壊死、神経病性関節症があります。早期に正確な診断をしないと後で治療が困難になるものもあります。急激に膝がはれたり、強い痛みを感じたら整形外科でエックス線検査などを行って適切な治療を受けることが重要です。変形性膝関節症の早期なら、ヒアルロン酸ナトリウムといった関節軟骨の成分やステロイド剤の関節内注射も関節炎症状を軽減させます。疼痛が慢性化した場合は大腿部の筋肉の萎縮を改善するような筋肉トレーニングも大切です。入浴後の膝が暖まっているときに、伸びにくくなった膝を真っ直ぐにするような矯正運動を行います。装具の使用も関節の安静と保持に効果を示します。手術療法では、早い時期なら関節鏡という道具を使って関節炎を起こしている組織を切除したり、O脚を治して変形を矯正する骨切り術といった方法があります。変形がかなり進行し、日常生活が困難になった場合には人工関節を入れる手術があり、かなりの改善が見込めます。

10.変形性股関節症と診断された

(Q) 五十歳代の兼業主婦。数年前から右股(こ)関節が痛み、変形性股関節症と診断 され、薬とリハビリを行っています。半年前から、長く歩いたり立っていたりする と、今までにない激痛が走るようになり、病院で手術を勧められました。どのような 手術で、どれくらいの期間入院するのですか。手術後、仕事はできるのでしょうか。

(A) 変形性股関節症は体を支える股関節の関節軟骨が徐々に削れ、その削れた軟骨の粒子が関節炎を起こして、関節の痛みをもたらす疾患です。関節に痛みを感じるということは、関節が壊れないようにするためのメッセージが発せられていると考えられ、まずは体を休め、それ以上関節に無理をかけないようにすることが大切です。痛みを上手に抑えていければ、関節症の進行をかなり予防でき、手術を急いで受ける必要がなくなることがあります。 五十歳代で今までにない股関節の激痛が走ったり、痛みが日に日に増しているということは、関節軟骨の破壊が強く起こっていて、股関節症が進行しているものと考えられます。従って痛みを確実に取り除くことのできる治療法としては、変形した関節を金属の関節に取り換える、人工股関節手術が選択されます。
手術を受けられる場合、入院期間は以前よりかなり短くなり一カ月前後が一般的です。しかし、手術後、日常生活に戻ることを考えると、入院期間が短ければ良いというものではありません。手術後は体の回復に合わせて、股関節に痛みを生じないことを確認しながら、無理せずリハビリをすることが大切です。手術後は重労働や思い荷物を持って歩く仕事でなければ、仕事に復帰できます。ゴルフやゲートボール、ウオーキング程度の活動は可能です。しかしながら、人工股関節は何から何まで完ぺきなものではありません。手術後の合併症としては、発生率は少ないのですが、脱臼やゆるみ、人工関節の周囲が化のうする感染や、人工関節の骨盤側の関節面に使われるプラスチックの摩耗があります。 手術で股関節痛は消え、歩く姿勢も良くなり、充実した生活を取り戻すことができます。激しいスポーツや体を酷使する生活をせずに、転倒には気をつけてください。注意を続ければ、二十年以上痛みのない状態を維持できると思われます。手術の時期やその方法は、主治医とよく相談して決めると良いと思います。 (くきた整形外科クリニック院長・札幌)